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大阪地方裁判所 平成5年(特わ)3909号 判決 1995年6月19日

本籍

和歌山市園部五〇九番地

住居

右同

農業

清水久夫

昭和四年一一月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官室田源太郎、弁護人土居利忠各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金五四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、和興開発株式会社の当時の代表取締役である前田喬、同社の顧問税理士である則岡信吾と共謀の上、被告人が平成四年六月一〇日ころ被告人所有の和歌山市薗部字五屋谷ノ内雛子谷一七二五番四の山林(立木を含む。)ほか二筆の山林並びに被告人及び被告人の義母清水照所有の同市薗部字五屋谷ノ内雛子谷一七二五番二の山林(立木を含む。)ほか二筆の山林についての被告人の各共有持分を同社に合計一八億〇九八一万四〇〇〇円で売却譲渡したことに関し、被告人の所得税を免れようと企て、別紙(一)修正損益計算書記載のとおり、被告人の平成四年分の総合課税の総所得金額が三二九万九一七五円、山林所得金額が九五三一万七〇〇〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が一五億六六六一万三〇五〇円で、これに対する所得税額が四億九八六九万一二〇〇円であった(別紙(二)税額計算書参照)にもかかわらず、右譲渡にかかる収入金の一部を除外した虚偽の売買契約書を平成三年一二月三〇日付けで作成するなどの方法により、平成四年分の右譲渡所得及び山林所得の全部を秘匿した上、平成五年三月一五日、同市湊通丁北一丁目一所在の和歌山税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総合課税の総所得金額が三二九万九一七五円(ただし、申告書は誤って三二九万九九五三円と記載)で、これに対する所得税額が八万〇五〇〇円(ただし、申告書は誤って一万〇五〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(二)税額計算書記載のとおり、平成四年分の正規の所得税額と右申告所得税額との差額四億九八六一万〇七〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

(注)括弧内の漢数字は証拠等関係カード検察官請求分記載の証拠番号を示す。

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官調書〔二五二ないし二五四〕及び大蔵事務官の質問てん末書〔二五一〕

一  分離前の相被告人前田喬の当公判廷における供述

一  第六回及び第八回公判調書中の分離前の相被告人前田喬の供述部分

一  分離前の相被告人則岡信吾の当公判廷における供述

一  前田喬〔二〇三、二〇五、二〇六、二一三〕及び則岡信吾〔二五七、二五八、二六〇〕の検察官調書

一  清水照〔一〇五〕、清水貞夫〔一〇六〕、中村溥〔一〇七ないし一〇九〕、塩郷善昭〔一二二〕、宮本多喜子〔一三一、一三二〕、松江恒雄〔一三八ないし一四三〕の検察官調書

一  査察官調査書〔七ないし二〇〕

一  査察官報告書〔二一、二三〕

一  査察官調査報告書〔二二〕

一  証明書〔二ないし四〕

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔六〕

(法令の適用)

被告人の判示所為は平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑の併科を選択し、かつ、情状により同条二項を適用して右の罰金額はその免れた所得税の額以下とし、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金五四〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、旧刑法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が自己の所有する山林を売却したことに関し、売却先の会社の当時の代表取締役や顧問税理士と共謀の上、四億九八六一万円余りもの所得税を脱税したもので、ほ脱率は約九九・九八パーセントにも達し、重大事案である。その犯行態様は、右山林売却の売買代金のうち七億円もの巨額を裏金にし、残り一一億〇九八一万円余りを売買代金として記載した売買契約書についても契約日付を長期譲渡所得の分離課税の税率の低い平成三年の一二月三〇日に遡らせ、結局所得を申告すべき平成四年分としては右売却にかかる所得を全く申告しなかったというものであって、悪質であり、被告人は強い非難を免れない。

しかし、本件ほ脱額のうち売買契約書に記載した一一億〇九八一万円余りの売買代金に関しては、本件納期限前の平成四年六月二三日に平成三年分の所得として修正申告した上、所得税二億五二〇五万円を納付しており、本件についての実質的なほ脱額は約二億四六五六万円であること、さらに、本件起訴後、被告人は本件ほ脱額を平成四年分の本税として納付し、また過少申告加算税、重加算税及び延滞税についても全額納付済みであること、売却先会社の当時の代表取締役が、本件売却にかかる所得を前記税率の低い平成三年分として申告できるよう、被告人がまだ売却に応じてもいないのに平成三年一二月三〇日に手付金として一億円の定期預金証書を用意した上、売買契約書の日付を同日に遡らせることや売買代金の一部を裏金にして脱税することを発案して被告人に持ちかけるなど、本件脱税は売却先会社側が発案し、積極的に働きかけを行ったものであること、七億円の裏金については本件売買当日になってはじめて右代表取締役からその支払いを持ちかけられたのであって、ことさら被告人側が要求していたものではないこと、本件は単年度の土地取引に絡むもので一過性のものであること、被告人は事実を素直に認め、反省していること、被告人にはこれまで前科がないことなど量刑上被告人に有利な事情も認められる。

そこで、本件ほ脱額は高額で、ほ脱率も高いが、前記の実質的ほ脱額や犯行に至る経緯等被告人に有利な事情を総合して考慮した上、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑についてはその執行を猶予するを相当と思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 松下潔 裁判官 増田啓祐)

別紙(二)

修正損益計算書

(総合計)

<省略>

(分離長期譲渡所得)

<省略>

(山林所得)

<省略>

(総合課税総所得)

<省略>

別紙(二)

税額計算書

<省略>

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